天の陽炎-大正浪漫伝説
今日は、大阪遠征の数日前にGETし、新幹線の中で読んだ『天の陽炎』の感想です。
これまでも大正という古きよき時代を浪漫という観点から捉えた作品が、小説・曲・舞台など数多くありますが、これは、六道ヶ辻とはまた違った恋愛小説と言えるでしょうか。「愉しませてやって呉れて居れば良いのよ」というような、古風な漢字使いはとても趣があり、単なる恋愛小説とは一線を画しているように思います。
今回は全く予備知識なく読み始め、読み終わってやっと、「浪漫伝説」ってそういう意味だったのか…と思い当たったくらい。読んでびっくり玉手箱、って思いました(笑)。華族の鬱屈した世界、大陸への憧れ、下男・家令・女中・姑・舅の確執、そこに裏のある粗野な乱入者。そんな世界を、3番目の嫁として迎えられた若い真珠子(しずこ)の目から追ったお話です。
真珠子は、18歳で女学校を卒業後まもなく、その美貌を見初められて子爵の家に嫁いだという、玉の輿にのった女性。でもその良人は、一人目の妻を産褥でなくし、二人目の妻は駆け落ちして家を出てしまったという経歴を持った人で、姑からは、”息子には子種がないからただ人形のように大人しく仕えてくれればよい”、と言い渡されていました。(それではなぜ産褥なのか。それは家を絶やさないために、1番目の嫁は舅の子を産まされていたということらしい。)
そのようにとても行動に制限のある、けれどもけだるい毎日を過ごす真珠子が、ある事件をきっかけに今までの自分の生き方を問い直してしまうお話なんですけれど、裏を返せば、現代の女性がいかに自由なのか、ということを再認識させられたような気もしています。今は”自分のやりたいことが分からない”というニートだったり、目的なく大学生活を送る学生であったりと、その”選べる自由”が逆にプレッシャーになっている現代社会。その自由を得るために、昔の人たちがどれだけ苦労したかを少しでも思えば、何か見えてくるのではないかな…と思ったりもしました。かくいう私は、もしかしたらその自由を謳歌している人種なのかもしれませんね…。
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